2018-01-01から1年間の記事一覧

「世界をまるごとハグするよ」

今年の1月から、「書くこと」一本で仕事をしている。もうすぐ1年が経つが、今年はこれまで生きてきた中で、最も文章を書いた1年だった。365日、頭のどこかでずっと原稿のことを考えている。夜眠っているあいだも、視界が文字だらけの夢をよく見る。一文字一…

あの山のてっぺんからの風景を

批評家であり随筆家である若松英輔さんが、以前以下の文章をTwitterに投稿していた。「文章を書くとき、最も重要なのは主題と文体の発見だ。真に探求せずにはいられないという問題に出会い、それにふさわしい言葉の態度、すなわち文体を見出すことさえできれ…

柳下さんの書いた『柳下さん死なないで』の話

前回の『柳下さん死なないで』を読んだ柳下さんからクレームが来た。「僕は、モテるようなことを書いてほしい、と頼んだはずだけど」と言うのだ。「うん。だから、柳下さんがモテるようなことを書いたじゃない」わたしがそう答えると、柳下さんは「ええ!?」…

「自分のことを好きな女の子」の話

「ねえ、土門さん。君の書いている『柳下さん死なないで』だけどさ、もっと他に書くべきことがあるんじゃないかと思うんだ」と、柳下さんに言われた。「それって例えばどんなこと?」そう尋ねたら「例えば、僕がどれだけ陽気でポップな人間かということだと…

視線を合わせてまっすぐ呼ぶ声

この『柳下さん死なないで』というブログの弊害のひとつに、「見知らぬ人からこわがられるようになった」ことがあるらしい。柳下さんがそう言っていた。「『あのブログを読んで、柳下さんってこわそうな人だなと思ってたんですよ』って言われちゃったよ」と…

美意識と、身体性と、プールの話

「美意識ってどうしたら身につくんでしょう」このあいだ、フリーペーパーを作る学校『言志の学校』に柳下さんとふたりで登壇したときのこと、授業後にそう言って相談をしにきた男性がいた。柳下さんはその日、「編集」がテーマの授業でこんなことを言ったの…

編集者は「愛」と「美意識」でできている

柳下さんは、「編集者」とあまり名乗りたがらない。なぜかというと、「『編集者』とは作品にたいして使われる肩書きだから」だという。作品の横に立ち「僕はこの作品の編集者です」と言ったり、作家の横に立ち「僕はこの作家の担当編集者です」と言うのは問…

夏休みの終わる二日前

おとといアイロンをかけていて、ふと思った。「このアイロンは、なんのためにかけているんだろう?」シャツは青と白のストライプだった。わたしはそれに紺のスカートを合わせ、グレーのカーディガンを羽織ることにした。アイロンをあてた、まだすこし熱の残…

「そもそも編集者とは何だろう?」

今書いている長編小説の改稿がいったん終わり、去る9月27日に第二稿を提出した。それはもちろん、あくまで第二稿であって、最終稿とは限らない。第三稿も、第四稿も、もしかしたらもっと先の稿も、ありえる。柳下さんは「デビュー作なのだから、ゆっくり納得…

〆切はすべての創作の母だから

柳下さんと出会ってからの二年間、彼に設定された〆切は数え切れない。わたしの手帳にはそのたび「◯◯の〆切」と書き込まれる。〆切を切られるのはどきどきするものだ。それはもちろん「間に合うだろうか」という不安によるどきどきでもあるが、わたしはそこ…

小説はすでに君のなかにある

初稿を書くときに、柳下さんによく言われていたのは、「駄文を垂れ流すつもりで書いてごらん」だった。その理由として、「駄文だと思っているのは君だけだから」ということと、「改稿で刈り込むためには枝葉が多いほうがいいから」ということ、そして「小説…

文章の癖、思考の癖

わたしの文章には読点が多い。「読点が多いですね」という指摘はこれまでに何度も受けていて、自分でも結構気にしている。書き終えて、読み返してみて、目につくところは削っていく。それでもまだたまに言われるので、相当読点が多いのだと思う。あと、ひら…

「小説というものについて考えてみたんだ」

柳下さんは、よく因数分解をする。たとえば、「女」の要素を「母性・女性性・少女性」に。「おいしい」の要素を「熱・塩・出汁」に。「知性」の要素を「体力・集中力・持久力・好奇心……(これはまだ因数分解の途中であり、体力のなかに集中力・持久力も含ま…

「君は原稿製造機じゃないんだから」

小説の改稿に加え、インタビューや記事執筆で忙しかった7月の終わり頃。ふと柳下さんから電話がかかってきてこのように言われた。「一週間に一度、平日に完全オフの日を作ってみてはどうだろう」え?と思わず聞き返す。これからフルエンジンで書いていかない…

「心の半径」の話

柳下さんと、初めての小説の打ち合わせをしたのは、車の中でだった。「いろいろ考えたんですが」と、自宅まで迎えに来てくれた柳下さんは言った。「ドライブしながら打ち合わせしませんか」柳下さんの車はきれいな赤色だった。その赤色が、夜の京都を泳ぐよ…

嫌いなものの話

先日柳下さんとお酒を飲んだとき、つい気が大きくなって、自分の「嫌いなもの」について話をしてしまった。「嫌いなもの」について話すときには、往往にしてその「嫌いなものを作った人」の話になりがちである。簡単に言えば、それは悪口なのだった。「ああ…

「どうしたら文章が書けるんですか?」

「どうしたら文章が書けるんですか?」このあいだ近所でお茶をしているとき、柳下さんが、つい最近そういう質問をもらったのだと言っていた。その質問をした男の子は大工さんで、普段は文章を書く仕事はしていない。ブログなども日常的には書いていないよう…

編集者とわたし

初めて小説を書いたのは、高校生のときだ。それから大学で1作品、社会人になり3作品書いた。社会人になってからの3作品は、文芸誌の新人賞に応募した。だけどそのどれも、賞をとることは叶わなかった。仕事をしながら小説を書いていた。原稿用紙100枚の小説…

窓を開けた人

柳下さんとわたしは、小さな出版社を営んでいる。このあいだ、あるブックフェアに出店して、自分たちの本を売った。2日間あって、わたしは両日とも店番に立った。柳下さんはそのときとても忙しくて、もしかしたら来られないかもしれないと言っていたのだけど…

君は君自身の美意識を燃やして走る機関車であればいいよ

「君は僕のことを恐がりすぎだ」柳下さんによくそう言われるのだけれど、編集者というのは書き手にとり程度の差こそあれ恐いものだと思う。編集者は書き手にとって「発注主」とか「第一の読者」を超えて、「メンター」や「先生」という役割を担っている。書…

だって女の子なんだから

先日、柳下さんにインタビューをした。本文ではカットしてしまったのだけど、印象的だった言葉がある。テープ起こしをそのまま載せてみよう。「男とは喧嘩を恐れないでいる状態であることが、喧嘩をしないことにつながると思うんですね。「お前言いたいこと…

柳下さんの写真の話

写真を撮られるのが苦手である。カメラを向けられたときに笑顔を向けたらいいのか、それともカメラなど意識していないよという顔をしたらいいのか、よくわからない。それで中途半端に笑ったおかしな顔になってしまう。ああいうとき、どういう顔をしたらいい…

柳下さんが煙草を吸うときの話

柳下さんは普段煙草を吸わない。それでも時々吸うことがあって、そういうときはアメリカンスピリットを吸うようだ。彼は自分のパフォーマンスを落とすことを極端に嫌がる性格なので、煙草を吸うことはそれに矛盾しているように見える。だから柳下さんが煙草…

虚と実の話

初めて柳下さんと喫茶店で話したときだと思う。そのとき彼は「虚と実の話」をした。バンドマンが就職をすることについて、話をしたときだ。バンドマンは正社員として安定した就職をすべきか、それとも、時間に融通のきくフリーターとして働くべきか。柳下さ…

続・友達についての話

柳下さんと出会ってから「友達っていいもんだな」と思うようになった。それまではそんなふうにはあまり思わなかった。わたしは友達が少ないからと言って、やっかんでいたのかもしれない。わたしの友達はもちろん好きだ、でも、「友達」という語感が何かキラ…

柳下さんの教育方針の話

柳下さんには娘さんがいて、その子はわたしの長男と同い年だ。6歳。この春にふたりとも小学生になった。まだふたりは会ったことがない。わたしも、彼女には一度(それも数秒)しか会ったことがない。教育方針というのは人それぞれにあるものだと思うけれど、…

幸福の宿る場所

この間柳下さんとレストランに行った。レストランというのに行くことがあまりないので、ドレスコードがよくわからなくて、とりあえずシャツと黒い革靴を履いて行くことにしたのだけど、待ち合わせ場所である喫茶店にいた柳下さんは、果たして白いTシャツにジ…

最大の〆切、そしてメメントモリ

最近また柳下さんが忙しそうだ。寝ていないのだろうなと思う。「からだ大丈夫?」と昨日電話で聞いたら、「君はいつも僕の体調を心配してくれているね」と笑っていた。わたしはときどき、柳下さんが死ぬときのことを想像する。誰から連絡が来るだろうか。も…

君はこういうところがある

柳下さんと会うと緊張するのだけど、それがなぜなのかと考えたときに、柳下さんがよく、「君はこういうところがあるね」と言うからなのではないかと思った(これはまだ仮説である)。たとえばこれまでに言われたことは、「君は忘れっぽいね」「君は享楽的だ…

友達についての話

「犀の角のようにただ独り歩め」と柳下さんは言った。「その先の領域でしか会えない友達がいる。それが本当の友達じゃないかな」