2019-01-01から1年間の記事一覧

『柳下さん死なないで』を引っ越しました

今後はこちらに書いてまいります。 https://note.mu/yorusube/n/n198745cccfd7土門蘭のnoteにアップされていきますので、よかったら引き続き読んでみてください。 【告知】さて、これまで4のつく日に更新してきた『柳下さん死なないで』。来る2019年12月8日…

ゴシップに向いていない人

ある朝起きてインターネットを開くと、蒼井優と南海キャンディーズの山ちゃんが結婚したというニュースが目に飛び込んできた。それを知ったわたしはとても驚いて、すぐに誰かとこの驚きを共有したくなった。こういうとき、自宅でひとりで仕事をしている身の…

「勇気を伝染させる仕事」

柳下さんはときどき「君に何か本を貸してあげよう」と言って、本を貸してくれる。柳下さんが選ぶ本は小説だったり漫画であったりノンフィクションであったり、多岐に及ぶのだけど、ぱっと見、なぜ彼がこの本を貸してくれたのかわからないことが多い。だけど…

悪のクリエイティブ

ずっと編註を入れたいと思っていた。編集されていない情報は、世界に不安と無秩序を生み出す。それは、とてもよくない。そして、とてもナンセンス。しかし、節度を持った常識人の僕が、土門さんの創作によって狂人に仕立て上げられるという、この「柳下さん…

書くときに向かうのは、真っ白いキャンバス

書くことが苦しいかと聞かれれば、苦しい。だけどわたしは書くことがとても好きだと思う。というか、書くことが必要だ。書くことは、狭くちっぽけな自分の部屋の窓を開け放すことに似ている。書くことは、理解できないほど広い青空をひとり見上げることに似…

「ものを売る」ふたつの原則

「ものを売る」ということが、苦手だった。むかし、出版社の営業をやっていたことがある。本屋さんにうかがって、担当のスタッフさんに会い、新刊のおすすめや既刊の補充の提案などをする。わたしはこれが本当に苦手で、4年経っても全然慣れなかった。なぜ今…

神楽坂の「ニコニコさま」

こんにちは。日本全国の「おじさんさま」を調査、研究している今井夕華と申します。 みなさんは、「おじさんさま」を知っているでしょうか? おじさんさまとは、少年の心をいつまでも大切にして、夢中で好きなことを追いかけている「好奇心の精霊」が宿る神…

「自分会議室」と「自分現場」。あるいは「鳥の目」と「人の目」。

ついこのあいだ、飲み会でこんな会話を耳にした。すぐ隣にいるふたりは『闇金ウシジマくん』という、闇金業者の社長が主人公の漫画について話していた。ひとりの男性は言う。「僕はあの漫画を読むと、自分はここまで落ちぶれていないなって安心するんです」…

箸の持ち方が正しくない

柳下さんは食べ方がきれいだ。ナイフとフォークを華麗に使いこなして、すいすい野菜や肉を適当な大きさに切り、おいしそうに頬張る。「食べ方がきれいだね」台湾に出張に行ったときだったろうか、朝ごはんのバイキングを食べているときに思わずそう言った。…

栁下さんさようなら

土門蘭さま はじめまして。いつもインタビュー記事や小説、読ませていただいています。突然すみません、私は『栁下さん死なないで』を書いてみないかと、生前栁下さんに言われたことがある者です。 その時は、私は土門さんにお会いしたこともないし、書ける…

「悩み」もどきと、柳下さん

わたしには常にいくつか悩み事があるのだけど、そのうちのひとつは「お腹が弱い」ということだ。生のたまねぎやにんにくなど香りの強いもの、とんかつやカルビなど脂の多いものを食べると一発でお腹を壊す。冷えた牛乳やコーヒーもアウト。どんなに暑い夏場…

「書けない」と「読みたい」

全然文章が書けないというときがある。今がまさにそうだ。書きたいことがないのではなくて、書きたいことはあるのだけどそれを言葉に変換するパワーが乏しく、スピードが遅くなっている、という感じかもしれない。「どう思いますか?」と不意に聞かれて、「…

柳下さんと暮らす。

当時「拙宅に書生が居りまして」と話すと、皆一様に驚いた。それが愉快で、僕も大げさに吹いていたように思う。平成から令和にうつる辺りの、大阪から上京した國重裕太君(ちゅーたくん)との奇妙な同居生活が、このような文章を生み出すことになるとは、ま…

初稿で自分のために書き、改稿で読者のために読む

『小説家を見つけたら』という映画に、こんなシーンがある。偏屈な小説家が、文才を持つ青年に、文章の書き方を教える。タイプライターに向かった小説家は、まるでピアノを弾くように素早く文字盤を打ちながら、青年にこう言う。「考えるな。第1稿はハートで…

「誰がインタビュアーをインタビューするのか」問題

先日、慶應義塾大学SFCの清水先生からお声がけいただき、「オーラル・コミュニケーション」ゼミにて、講義をさせていただいた。お題は「聴くことと書くこと」について。わたしがこれまでどのようにこのふたつと向き合ってきたのかを話してほしいと、メールを…

実録!人類最大の哺乳類 “ヤナシタ”の生態を暴く

猛獣よりも猛獣使いの方が、実は強かったりするのだけれど、中野友彦は、その猛獣使いを使役する猛獣だったりする。ようするに、とても仕事のできる男だということ。マネジメントもプレイングも、彼にかかればトップレベルで解決する。空中にふわふわと浮か…

文章に必要な「水分」と「油分」

30歳を過ぎてから肌質が変わった。前にもここに書いたけれど、そのころ、極端に肌が荒れた。あれは本当に悲しかった。皮膚科に行って強い薬をもらってなんとか治したけど、すぐに再発するので参ってしまった。あれこれ試行錯誤した結果、おそらくこれだとい…

「黄金期」について

もうすぐ二冊の本が出る。小説『戦争と五人の女』と、ルポルタージュ『経営者の孤独』という本だ。夏には両方出ている予定だけど、あまり実感がわかない。まだ書かなくてはいけない原稿もあるし、道半ばを歩んでいる真っ最中だからかもしれない。締め切りが…

柳下さんが、いる

竹中直己は、カレーの人であり、彼のコミュニケーションはカレーを媒介して行われる。世は称して、アズノウンアズ、彼はタケナカリー。そして彼には、ユニークな文才もあり、その文章には必ず密度と湿度と内圧がある。本稿にもその才気があふれているが、し…

ライフイズカミングバック、あるいはアイアムカミングバック

この年度末、わたしがめちゃくちゃに情緒不安定だったというお話はもう何度かしたと思う。そのときにわたしを大いに助けてくれたのが、漫画だった。作品は冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』。低迷期間は暇があればこの漫画ばかり読んでいて、本当に救われていた。…

わたしが書く言葉は、まず、わたしの前に強く現れる

このあいだ、いつも行くお店でマッサージを受けていたら、担当のお姉さんに「春って苦手なんですよね」と言われた。「なんだか気分が塞ぐっていうか、そういうの蘭さんないですか」めちゃくちゃありますよ、とわたしは答える。この2,3月は精神状態が非常に悪…

やなしたさんが二人いる

福島磐城の出、在笹塚の橋本太郎は、暗闇に居れば目玉ばかりがギラギラと光るあやしい風体で、素性を知っている馴染みの仲でも、思わず避けてしまいそうな体、食い詰めた素浪人さながらだ。しかし、鋭い眼光とは裏腹に、心情は寛厚にして旧知とは款洽、付き…

弱い自分のまま強くなる

わたしの精神状態には波があって、その波は不定期によく荒れる。人間関係や、仕事の進捗具合によるもの。気圧、季節の変わり目や、単純に体調不良によるもの。大小さまざまな要因により、わたしの精神状態は簡単に乱れる。毎年、3月から4月は特にひどくて手…

「正気はひとつしかないけど、狂気はいろんな形があるからね」

先日、Instagramである男性のミュージシャンをフォローした。ファンというわけでもないし、それどころか、彼の作品を聴いたこともない。なんとなく引っかかるところがあって、フォローした。そして、一方的に彼の投稿を目にする日々が続き、少しずつ彼のこと…

柳下さんが死んだ。

畏友・小倉ヒラクは謎の人だ。肩書は「発酵デザイナー」と公称されるが、彼はまた、思想家でもあり、研究者でもあり、文章家でもあり、またとても現代的な社会学者のようにも見える。いつも思索の内に自在に遊んでいる。職能から小倉ヒラクを理解しようとす…

ゴールの5m先にある、もうひとつのゴール

『100年後あなたもわたしもいない日に』という本がある。短歌と絵の本だ。わたしが短歌を読み、寺田マユミさんが絵を描いている。デザインは岸本敬子さんで、編集は柳下さんだ。これまでに3刷を重ねて、こつこつと販売・発送し、そのうちのほとんどが書店さ…

「君はもう立派な大人なんだよ」

突然だけどわたしは自己肯定感が低い。もっとちゃんと言うと、自分を肯定したり信じるために必要な「自分の信頼」タンクがあるとすれば、多分そのタンクのどこかに穴が空いている。「自分はこういうことをやってきたじゃないか」「こういうことを考えてこう…

「死なないで」なんて言うもんか。

本稿は、甲府塩山の編集者・小野民女史による寄草である。過日、しかし、松の内のころ、吾人に宛て「おしゃべりしたいことがたまっています。ぜひ近々お会いしたいものです」と親しく私信が送られた。言葉を、その言葉の通り受け取るのは美徳であると考え、…

ふたつめの「読む」の話

このあいだ、ある会話を耳にした。最近本をつくった女性。そしてそれを読んだ男性が、向かい合って話している。男性は本を読んだ感想を、静かな口調で、だけど熱心に、女性に伝えていた。「この本には、明確な『答え』が書かれていない。だけど、いろいろな…

「君が心を開けば、世界もまた心を開くよ」

わたしは友達が少ない。いまに始まった話ではなく、これまでもずっとそうだった。 ひとりひとりのことは好きなのに、一緒にいるとどう振る舞ったらいいのかわからなくなる、というのだろうか。話すことがなくなったり、用事が終わったりすると、「もう帰った…