土門

「世界をまるごとハグするよ」

今年の1月から、「書くこと」一本で仕事をしている。もうすぐ1年が経つが、今年はこれまで生きてきた中で、最も文章を書いた1年だった。365日、頭のどこかでずっと原稿のことを考えている。夜眠っているあいだも、視界が文字だらけの夢をよく見る。一文字一…

あの山のてっぺんからの風景を

批評家であり随筆家である若松英輔さんが、以前以下の文章をTwitterに投稿していた。「文章を書くとき、最も重要なのは主題と文体の発見だ。真に探求せずにはいられないという問題に出会い、それにふさわしい言葉の態度、すなわち文体を見出すことさえできれ…

柳下さんの書いた『柳下さん死なないで』の話

前回の『柳下さん死なないで』を読んだ柳下さんからクレームが来た。「僕は、モテるようなことを書いてほしい、と頼んだはずだけど」と言うのだ。「うん。だから、柳下さんがモテるようなことを書いたじゃない」わたしがそう答えると、柳下さんは「ええ!?」…

「自分のことを好きな女の子」の話

「ねえ、土門さん。君の書いている『柳下さん死なないで』だけどさ、もっと他に書くべきことがあるんじゃないかと思うんだ」と、柳下さんに言われた。「それって例えばどんなこと?」そう尋ねたら「例えば、僕がどれだけ陽気でポップな人間かということだと…

視線を合わせてまっすぐ呼ぶ声

この『柳下さん死なないで』というブログの弊害のひとつに、「見知らぬ人からこわがられるようになった」ことがあるらしい。柳下さんがそう言っていた。「『あのブログを読んで、柳下さんってこわそうな人だなと思ってたんですよ』って言われちゃったよ」と…

美意識と、身体性と、プールの話

「美意識ってどうしたら身につくんでしょう」このあいだ、フリーペーパーを作る学校『言志の学校』に柳下さんとふたりで登壇したときのこと、授業後にそう言って相談をしにきた男性がいた。柳下さんはその日、「編集」がテーマの授業でこんなことを言ったの…

編集者は「愛」と「美意識」でできている

柳下さんは、「編集者」とあまり名乗りたがらない。なぜかというと、「『編集者』とは作品にたいして使われる肩書きだから」だという。作品の横に立ち「僕はこの作品の編集者です」と言ったり、作家の横に立ち「僕はこの作家の担当編集者です」と言うのは問…

夏休みの終わる二日前

おとといアイロンをかけていて、ふと思った。「このアイロンは、なんのためにかけているんだろう?」シャツは青と白のストライプだった。わたしはそれに紺のスカートを合わせ、グレーのカーディガンを羽織ることにした。アイロンをあてた、まだすこし熱の残…

「そもそも編集者とは何だろう?」

今書いている長編小説の改稿がいったん終わり、去る9月27日に第二稿を提出した。それはもちろん、あくまで第二稿であって、最終稿とは限らない。第三稿も、第四稿も、もしかしたらもっと先の稿も、ありえる。柳下さんは「デビュー作なのだから、ゆっくり納得…

〆切はすべての創作の母だから

柳下さんと出会ってからの二年間、彼に設定された〆切は数え切れない。わたしの手帳にはそのたび「◯◯の〆切」と書き込まれる。〆切を切られるのはどきどきするものだ。それはもちろん「間に合うだろうか」という不安によるどきどきでもあるが、わたしはそこ…

小説はすでに君のなかにある

初稿を書くときに、柳下さんによく言われていたのは、「駄文を垂れ流すつもりで書いてごらん」だった。その理由として、「駄文だと思っているのは君だけだから」ということと、「改稿で刈り込むためには枝葉が多いほうがいいから」ということ、そして「小説…

文章の癖、思考の癖

わたしの文章には読点が多い。「読点が多いですね」という指摘はこれまでに何度も受けていて、自分でも結構気にしている。書き終えて、読み返してみて、目につくところは削っていく。それでもまだたまに言われるので、相当読点が多いのだと思う。あと、ひら…

「小説というものについて考えてみたんだ」

柳下さんは、よく因数分解をする。たとえば、「女」の要素を「母性・女性性・少女性」に。「おいしい」の要素を「熱・塩・出汁」に。「知性」の要素を「体力・集中力・持久力・好奇心……(これはまだ因数分解の途中であり、体力のなかに集中力・持久力も含ま…

「君は原稿製造機じゃないんだから」

小説の改稿に加え、インタビューや記事執筆で忙しかった7月の終わり頃。ふと柳下さんから電話がかかってきてこのように言われた。「一週間に一度、平日に完全オフの日を作ってみてはどうだろう」え?と思わず聞き返す。これからフルエンジンで書いていかない…

「心の半径」の話

柳下さんと、初めての小説の打ち合わせをしたのは、車の中でだった。「いろいろ考えたんですが」と、自宅まで迎えに来てくれた柳下さんは言った。「ドライブしながら打ち合わせしませんか」柳下さんの車はきれいな赤色だった。その赤色が、夜の京都を泳ぐよ…

嫌いなものの話

先日柳下さんとお酒を飲んだとき、つい気が大きくなって、自分の「嫌いなもの」について話をしてしまった。「嫌いなもの」について話すときには、往往にしてその「嫌いなものを作った人」の話になりがちである。簡単に言えば、それは悪口なのだった。「ああ…

「どうしたら文章が書けるんですか?」

「どうしたら文章が書けるんですか?」このあいだ近所でお茶をしているとき、柳下さんが、つい最近そういう質問をもらったのだと言っていた。その質問をした男の子は大工さんで、普段は文章を書く仕事はしていない。ブログなども日常的には書いていないよう…

編集者とわたし

初めて小説を書いたのは、高校生のときだ。それから大学で1作品、社会人になり3作品書いた。社会人になってからの3作品は、文芸誌の新人賞に応募した。だけどそのどれも、賞をとることは叶わなかった。仕事をしながら小説を書いていた。原稿用紙100枚の小説…

窓を開けた人

柳下さんとわたしは、小さな出版社を営んでいる。このあいだ、あるブックフェアに出店して、自分たちの本を売った。2日間あって、わたしは両日とも店番に立った。柳下さんはそのときとても忙しくて、もしかしたら来られないかもしれないと言っていたのだけど…